新規事業立案コンペを見て「物足りない」と感じた学生エンジニアが、AIに殴られて気づいた3つの死角
学生エンジニアが、新規事業立案コンペを見て「物足りない」と感じた理由と、その後に打ちのめされた3つの死角
こんにちは!ハッカソンによく参加し、開発や技術でプロダクトを作るのが大好きなデータサイエンス専攻の学生です。
先日、DeNAの新規事業立案インターンの様子を収めた密着動画を観ました。
- 参考動画: DeNA新規事業立案コースの密着動画
参加者は東大生や学生起業家など、錚々たる優秀なメンバーばかり。しかし、彼らが数日かけて練り上げたプレゼンを見終えたとき、私は率直にこう思ってしまいました。
「……あれ? 正直あんまり面白くないというか、企画のレベルが高くないのでは?」
「自分が見ていて『うわ、すごい!』と驚くようなアイデアが一つもない気がする……」
ハッカソンで優勝した経験もあり、「動くもの」や「尖った技術の組み合わせ」を現場で作り込んできた自分からすると、出てくるプロダクトがどれも「よくあるアプリにAIを乗せただけ」に見えてしまったのです。
「これは私の視点が狭いのか? それとも事業立案とはこういうものなのか?」
気になったので、AIを相手に自分の分析をぶつけ、「私の考えのどこが楽観的か、牙を剥いて全力で反論してほしい」 と壁打ちをしてみました。
結果として、ハッカソン脳(技術・ペイン直結脳)に染まっていた自分には見えていなかった「事業づくりの深いリアル」 を突きつけられることになりました。今回はその思考のログと発見をまとめます。
私が感じていた違和感と、各企画の「本質」の分析
まず、動画に出ていた企画に対して、私自身は以下のように「課題の本質」を捉えていました。
B班:ビューティン(メイク落とし・スキンケア記録)
自分の見立て: メイク落としのペインの本質は「(めんどくさいから)勝手にメイクを落としてほしい」こと。つまりロボットアーム的な自動化であって、AIに褒めてもらって習慣化するというのは、課題のすり替えに見える。
E班:推しレンズ(オタ活・画像収集TikTok風UI)
自分の見立て: 癖(ヘキ)の分析は、そもそも切実な課題ではない。ハッカソンによくある「ノリで作った薄いSNS」と同種に見えてしまう。
A班(優勝):クックパル(会話型AI料理アシスタント)
自分の見立て: 明確な強烈ペインはないが、「料理中は手が塞がっているが、耳・口・頭は暇」という状況(潜在的ペイン)を突いており、音声UIがしっかりハマっているから勝てたのだろう。
ここから私は、ひとつの仮説を立てました。
「ハッカソンもビジコンも、目指すところは『本質的なペインの解決』。だから、本質を捉えてハッカソンで勝てる強い企画は、ビジコンでも同じように強いはずだ。伝え方や手段が違うだけなのでは?」
しかし、この仮説に対してAIから返ってきた反論は、私のエンジニア的バイアスを粉々にするものでした。
AIからの反論で気づかされた「3つの死角」
死角①:「ロボットアームで落とす」は、ペインは解決しても事業を殺す
私が「メイク落としの本質は、勝手に落としてくれること(自動化)」と言ったことに対し、AIは「ペインの抽出としては正しいが、事業としては最悪手」と指摘しました。
- 物理・コスト・規制の壁: 全自動メイク落としマシーンを作るには、莫大なハードウェア開発費、安全性担保、薬機法クリア、数十万円の価格設定が必要になる。3日間のインターンはおろか、Web/AI企業の新規事業としてROI(投資対効果)が合わない。
- 泥臭い人間の心理ハック: B班の「AIに褒めてもらう」は、技術的にはペインのすり替えに見えるが、「明日からアプリで即リリース可能で、人間は承認欲求で動く」という行動経済学に張った極めてリアリスティックな妥協案でもある。
本質的なペインをそのまま技術で殴り倒すのではなく、「今あるリソース(スマホ・AI)で、人間の心理をハックしてどう迂回解決するか」というビジネスの制約を、私は完全に楽観視していました。
死角②:「薄いSNS」の裏にある、狂気的なデータ戦略(堀)
E班の推し活アプリを「ただの薄いエンタメSNS」と切り捨てたことに対しても、強烈なカウンターをもらいました。
- 「課題(マイナス→ゼロ)」だけでなく「欲望(ゼロ→プラス)」にも人は大金を払う: オタクにとって推しの最高の一枚が見つからないのは立派な不快(ペイン)であり、何時間もディグる熱量がある。
- データのフライホイール(参入障壁): この企画の本質はUIではなく、「スワイプさせることで、言語化不能な超ディープな嗜好データが爆速で溜まる構造」にある。このデータが溜まれば、InstagramやPinterestすら真似できない「世界一打率の高い推し活EC」という強固な堀(モート)になる。
「画面に見えている機能」だけで判断し、裏側で回るデータ蓄積とプラットフォームの構造を完全に見落としていたのです。
死角③:「ハッカソンで強い企画はビジコンでも強い」という決定的な嘘
一番ハッとさせられたのが、ハッカソンと事業立案の評価軸の根本的な矛盾です。
「ハッカソンは線香花火、ビジネスはインフラ」
- ハッカソン: 「そのAPIをそう組み合わせるか!」「デモがめちゃくちゃ面白い!」という瞬間最大風速の驚き(アハ体験)で勝てる。
- 事業立案: 「3ヶ月後もユーザーは使うか?」「明日、資本力のある大手が同じAPIを入れて全く同じUIを出してきたら、どうやって生き残るのか?(模倣困難性)」が問われる。
私が「体験としてハマっている」と評価した優勝チームの料理アシスタント(A班)も、事業の視点で見れば「クックパッドやクラシルが明日ChatGPTのAPIを叩いて同じ画面を作ったら一瞬で死ぬ」という致命的なリスクを孕んでいます。
ハッカソンで勝てる「一点突破の尖ったアイデアと実装」は、ビジネスにおいては単なる「1機能(フィーチャー)」に過ぎず、まだ「事業(ビジネスモデル)」にすらなっていないという現実を突きつけられました。
まとめ:技術の「突破力」に、ビジネスの「解像度」を掛け合わせる
今回の壁打ちを通して、ハッカソンと新規事業立案の違いが自分の中で明確に言語化されました。
| 比較軸 | ハッカソン(技術アプローチ) | 新規事業立案(事業アプローチ) |
|---|---|---|
| 主眼 | 最新技術によるエレガントな解決と驚き | 持続可能な仕組み(ビジネスモデル)と定着 |
| 評価されるもの | 短期的なアハ体験・プロトタイプの完成度 | 模倣困難性・データの蓄積・人間の心理理解 |
| 陥りがちな罠 | 「技術的にすごいが、誰も継続して使わない」 | 「手堅くまとまりすぎて、誰もワクワクしない」 |
優秀な人たちの企画が一見「普通」に見えたのは、彼らのレベルが低かったからではなく、「持続可能性」「人間の非合理な心理」「模倣困難性」という幾重もの重い制約をくぐり抜けた結果だったのです。
これからの自分へのネクストアクション
私はこれまで、「技術で課題をどうスマートに殴り倒すか」というハッカソン的な筋肉を鍛えてきました。その突破力や実装スピード自体は、今でも大きな武器だと確信しています。
しかしこれからは、
- 本質的な課題を理解した上で、あえて今できる現実解(スマホ・心理ハック)に落とし込む冷徹さ
- 「動いて面白い」の先にある、「どうやってデータを溜め、大手の追従を防ぐか」という構造設計
この2つの「事業的な解像度」を掛け合わせていきたいです。
技術で驚かせるだけでもなく、綺麗事のビジネスモデルを語るだけでもない。「本当に世の中に残り、使われ続けるプロダクト」を作れるエンジニアを目指して、また次の開発や企画に挑んでいきます!